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2016/07/06

本物に出会う

5月の初旬頃だったか、随分日が経ってしまって細かいことがうろ覚えになってきているのだが、印象的なじいちゃんにあったことを記録しておきたい。

帰り道、酒屋に寄ったときのこと。トロントでお酒を買えるところは限られている。例えばウイスキーが買いたかったから行くべき場所は一か所しかない。LCBOと呼ばれるリカーストアである。
売ってる場所が一か所ってのは価格競争が生まれにくいから、不健全じゃないのかねぇ、経済の仕組みとして。ねぇ、どうなの?ねぇねぇ。


まぁ、それはさておき。そのLCBOに行ったときの話。なんとなく個人的にウイスキー熱が再度盛り上がってきている気がしていた。ただのマイブームだけど。気になるウイスキーを色々試して、へぇーコレってこんな味なんだなぁってのを1人で楽しむ…という。一時期そうやってカナディアンウイスキーを結構試したのだが、久々にまた幾つか新しいのを試してみたい気持ちに駆られていた。
そこで酒屋に行き、カナディアンウイスキーを物色していたところ、なかに産地がAlberta州のものがあった。
アルバータといえば、ちょっと前にFort McMurrayというエリアが山火事によりとんでもない広範囲に火が及び、家屋などを焼き尽くしてしまうという大惨事があったところだ。
そこでなんとなく「アルバータ産のウイスキーを買ったら、少しは彼らの復興に貢献できるだろうか」などと考えて、ぼーっとボトルを手に取りラベルを眺めていた。

日本にもあるじゃないですか、「地産のものを買って、応援しよう!」っていうあれ。そんなことを考えていた矢先。
横から「ウイスキーなら、こいつが間違いない…」と全然違うボトルの前でぶつぶつ言う人がいる。

その初老の男は僕に話しかけていた。
見るとそのボトルにはハワイアンの女の子がフラダンスを踊るイラストがある。つまり明らかにカナダ産ではない。


ちなみにそういう「通りすがりの人」が突然会話をふっかけてくるのもここではよくある。カナダの人柄なんじゃないかとも思うし、人口が少なく、発展している都市とはいえ、まだ東京やニューヨークほど人に疲れていないような感じがあるからか、街を歩けばたまたま隣あった人がとても自然に話しかけてきて、相手もとても自然に会話につきあう。そんな景色はこの街の日常茶飯事である。(そして僕はそういうの人間らしくて好き)

さて、その初老。
僕の意図も知らずに、めちゃめちゃラベルの女の子がフラダンスしているウイスキーを進めてくる。
ちなみに彼はフレンドリーで酒に詳しい人…というより、ウイスキーなどの酒をかっくらって、昼間っから酔っ払うようなタイプ…の見た目をしている(見た目がそうだからといって、本当にその人がそういう人間かはわからない)。

僕の反応も待たずに、独り言と語りかけの絶妙なバランス感で彼は説明を続けている。
僕も割って入るように彼に理由を伝えて、「アルバータ州で山火事があったからっていうのもあるし、単純にこのウイスキーを試してみたいんだよね」というと彼は、「ふん。なるほどな、そういう感情的な理由で買うのも結構だが、それじゃあ本当にうまいウイスキーには出会えないぜ。このウイスキーはな、原材料にあれを使っていて…」と引き続き解説を始めた。

正直、その説明もよく分からないので「ありがとう。考えるよ。」と言って、話をやや強引に断ち切った。

その後も数分僕はウイスキー棚を眺めながら迷った挙句、結局両方を買うことにした。

よかれと思ってアルバータのウイスキーを買おうかと思ったが、おっちゃんにそこまで言われると俄然ハワイっぽいウイスキーも気になってきた。考えてみたらうまい酒を飲めるに越したことはない。


帰って、よく見たらそれはウイスキーではなく「ラム」であった。

そして飲んでみたら確かに美味かった…


あのおっちゃんは一体…


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